由紀さおり「1969」からなぜかザタイガース
由紀さおりのアルバム「1969」がアメリカで売れ話題になっている。発売早々ビルボードチャートの上位にランクイン。ほぼ全曲が日本語で歌われている。一部では坂本九「上を向いて歩こう」以来の全米ビッグヒットかと囁かれている。が、あまりヒートアップしないほうがいいかと思う。ジャズチャートにランクインしていることからもわかるように、共演しているピンク・マティーニ楽団の功績/知名度によるところ大、と思われるからだ。ピンク・マルティーニ楽団のことは初めて知ったが、どんな音楽をも取り込んでしまう雑食性のジャズバンド。「21世紀の歌謡曲」をこのところ標榜している由紀さおり/スタッフとの思惑が一致したのだろう。昭和40年代の歌謡曲が主に選曲されているこの「1969」、歌謡曲を「クール」ととらえたピンク・マルティーニの偉大なる時代錯誤の勝利ということか。にしても「夕月」のようなオリエンタル・ジャパンが誇張されたアレンジがこの時代においてまかり通るとは。マヒナスターズとか美輪明宏の曲をかつてレコーディングしていた、というオタク趣味あふれる楽団だからこそのなせる技だ。
しかしこの事実は僕に軽い眩暈を起こさせる。「歌謡曲」、どんな音楽をも取り込んでしまう節操のなさ、誇張された日本人的情緒、歌手のダサさ。10代の僕には全然「クール」なんかじゃなかった。後日、作詞作曲家、アレンジャー、バックミュージシャンなどスタッフの優秀さを知ることになり、それなりの評価を僕もするようになるが、「歌謡曲」どれほどこの単語を忌み嫌ったことか。
僕らポスト団塊と呼ばれる世代(1950年代前半生まれ)は「第2 Give me chocolate」世代と揶揄されることがあるほど、西洋ことにアメリカの文化の影響をもろに受けた世代だ。アメリカンポップスでおいしいキャンディを味わい、ヴェンチャーズ、ビートルズで電気楽器のインパクトを知り、ヒッピームーヴメントでは既成価値を疑うことを知った。そんなコンテンツが目まぐるしく入れ替わる時代にあっても「歌謡曲」はカッコ悪いことの象徴だった。
昭和は僕にとって、「日本的」でないものを模索した時代だった。日本的であることは守旧であり、つまらないもの事の代名詞だった。国内産音楽で初めて日本離れの可能性を見たのは「グループサウンズ」の誕生だったかもしれない。とりわけゴールデン・カップス、カーナビーツ、モップスなどには興奮させられたが、常に気になってしょうがなかったのが沢田研二(ジュリー)がいたザタイガース。男で「タイガースが好き」とはとても言えない時代の雰囲気だったが、沢田研二の魅力にははあらがえない何かがあった。タイガース解散の後、まさに歌謡曲の権化、ともいうべきなりふり構わぬ彼の活動は、僕のアンテナから外れてもいいはずなのだが、無視できぬものがあった。きっとそれはジュリーのロックに対するこだわりだ。そのスピリットを感じ取れる限り、彼は僕にとっての稀有なロックスターだった。
沢田研二バンドは井上崇之バンド、エキゾチックスそして現在も優秀なロックミュージシャンにより固定されている。現在キーボードを担当しているのは大山泰輝さん。聞き覚えのある方も多いだろう。かつて宮田あやことアルバム「BEWITCHED」を制作しGOLDEN SULUMBERS(GERSHWINの前身)でも演奏活動を行っていた彼だ。11月3日の沢田研二コンサート後GERSHWINを訪れてくれた。ジュリーバンドに長く在籍する彼に、ジュリーとのささやかな接点を見いだし、内心ほくそ笑んでいた僕だが、今回はさらなるサプライズが用意されていた。彼は岸部一徳さんを連れてきたのだ。説明は不要だろう。ザタイガースのベーシストであり現在はいぶし銀の俳優として知られるサリー!人の話をよく聞き、求められたときに自分を語り、周りの人への配慮もさりげない・・その人間性には感服してしまった。今回の沢田研二コンサートではタイガースのメンバーが共演している。サリーはロック・ミュージシャンとして現れたのだ。かつての僕にとってのスターが今もなお尊敬できる人として同じ空間にいる、奇妙な眩暈をこの時も感じた。
「ロック」が音楽の一ジャンルをさす意味だけの言葉ではない。そのことは、あの時代ロックンロールを愛し今なお音楽を必要とする人の共通認識だ。そういう意味で「歌謡曲」だってある人にとって「ロック」なのだ。時代の荒波をくぐりぬけてきた音楽にはきっと、時を超えた物言わぬ「力」がある。月日の経過と共に、なんであんなにかたくなだったんだろう、と反省しきりの今日この頃だが、しかし、「クール」な歌謡曲だけはご勘弁願いたい。いつまでもカッコ悪いものであってほしい。それが時代の記憶というものなのだから。由紀さおりの艶やかな歌声とピンクマルティーニ楽団だからこそ、昭和のエッセンスを美しく表現できたのであることをどうぞお忘れなく。







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