ファンを大切に大切に ダルビッシュ有、山下達郎
今シーズンから大リーグ、テキサス・レンジャーズに移籍したダルビッシュ有投手が調子を上げてきた。日本のスポーツメディアは連日熱心に報道している。ピッチャーの最大の魅力は三振奪取。日本球界屈指の右腕が大リーガーたちをどこまで切りきり舞いさせることができるか。野茂英雄以来の興奮で僕も毎朝の実況中継を楽しみにしている。
北海道に住む僕はダルビッシュをルーキーの時から身近に見ることができた。最初の勝利、初めて球速150キロを記録した瞬間、結婚/子供の誕生の報告、メディアにはかたくなでも、ファンに語りかけるとき彼は素の自分をさらしていたように思う。純朴なダルビッシュがいつもそこにいた。なぜメジャーリーグ入りをしたか、その本当の気持ちを彼はレンジャース入団会見では語らなかった。後日行われた札幌ドームのお別れ会見で「力と力の勝負がしたい」とファンの前で初めて本心を吐露した。プロとはどういうことか、ファンがあっての自分であるということを25歳の若さで彼は知っていた。
2012年4月15日、札幌ニトリ文化ホール。山下達郎「2011-2012」コンサートを観た。我が家から家族3人でぶらぶら歩きながら会場に向かった。散歩がてらに達郎を聴けるなんて最高の気分だ。達郎の新譜は欠かさず聴いているが、コンサートは初体験だった。6~7年に一度しか行われないコンサートでは、熱心なファン以外チケットを入手できるわけがなく、また日曜日しかコンサートに行けない僕の職業的事情もあって、達郎コンサートは半ばあきらめていた。ところが数年前から達郎は毎年ツアーを行ない始めた。おまけに今年の札幌公演は日曜日が含まれる。幸いにもチケットを入手でき、コンサートを昨年から心待ちしていた。
3時間を優に超えるステージとはいったいどういうものなのか、コンサートを楽しむというより、一体そこで何が行われるのか、そのことに対する興味がまず先に来てしまう。「東京のコンサートは最前列にスーツ姿の業界人が「どんなもんよ」と腕組みして聴いていることがあり、やりにくいったらありゃしない。」と達郎が語ったちょうどその時、腕組みして聞いていた僕はばつ悪くそっと腕組みを解いた。その昔ある札幌のバンドのライブを聴きに行った時、その最中ヴォーカリストから「雰囲気悪いぜ」と指を差されたことがある。腕達者のメンバーがそろうバンドだったので、どれどれお手並み拝見と表情厳しく見ていたのかもしれないが、決して楽しんでいなかったわけじゃない。何も指をさすことはないだろう。検証的にコンサートに行くとロクなことはない。
達郎コンサートで何に驚いたかって、まずその能弁ぶり。CDやラジオを聴いていただけではわからない。彼が「チンケ」と称するフォーク歌手にも負けない圧倒的なしゃべり。ファンに直接濃密に語りかける。MCなどなくとも達郎のコンサートは十分成り立つ。しかし彼はそう考えていないようだ。3時間余の観客との邂逅を無駄な時間としないよう必死だ。「お客様は神様です」三波晴夫の至言が頭をよぎった。この数年コンサートを続けている理由を「実演こそ音楽家の基本」と考えるにいたったと説明した。
ライブ・パフォーマンスが二十数年前発表した彼のライブアルバム「JOY」から何も変わっていないことにも驚かされた。まるで同じ演目を話しつづける落語家のようだ。しかし世界は確実に深くなっている。新作アルバム「RAY OF HOPE」の楽曲が過去の名曲に混ざっても引けを取らないどころか、より説得力をもって聴こえる。1億3千万人に等しく届く歌ではないかもしれないが、アルチザンとして練りに練られた曲と詞は、人はどうあるべきかへの切実な提言が含まれている。達郎はまた一つ階段を上ったようだ。ポップ・ミュージックの進化の一つの到達点を見た思いだ。
「録音しておけばよかった」と彼自身がステージで語ったように、その日のパフォーマンスに彼は満足だったようだ。そんなときに彼を初めて聴けて幸運だった。感動が持続しない病にかかって相当の年月がたつが、山下達郎コンサートの3時間半の余韻は半月たってもまだ続いている。もう一度聴く機会があったら、今度はクラッカーもっていこうかと(ライブを知るファンだけの秘密)、一緒に行った娘と話している。









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