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ダイアナ・クラール「WALLFLOWER」よみがえる珠玉の名曲たち

英国人歌手ジョー・コッカーが亡くなった。世に彼の存在を知らしめたのは「ウッドストック・ミュージック・フェスティバル(1969)」への出演だった。ビートルズののどかな曲が真っ黒のブルースに変貌する「With A Little Help From My Friends」の熱唱は忘れられない。その頃まだ10代だった僕には十分すぎる衝撃だった。その後映画にもなったレオン・ラッセルなどとの「Mad Dogs&English Man」コンサートでその名を不動のものとする。彼の特徴はそのだみ声によるソウルフルな歌唱だった。一聴しただけで彼と分かる歌声。もし彼やロッド・スチュアートが美声だったらここまで歌手としてのキャリアを積めたのだろうか。ロック・ジャズにおける悪声はヴォーカリストの価値を高める場合が圧倒的に多い。

カナダ出身のダイアナ・クラールも特徴あるハスキーヴォイスが持ち味の歌手である。彼女のデビューの時レコード会社はヴォーカリスト/ピアニストどちらで売ろうか悩んだそうである。結局シャーリー・ホーンばりのスロー・バラードを得意とする弾き語りのヴォーカリストとして売り出すのだが、一流のピアニストの腕よりも二流のそのだみ声の魅力に賭けたのだろう。現在彼女はポール・マッカートニーのアルバムに呼ばれるほどの押しも押されぬ超一流のジャズ・ミュージシャンである。

そんな彼女の新譜「Wallflower」を聴いた。どんな経緯でこのアルバムが制作されたかは知らないが、プロデューサー&アレンジにデイビッド・フォスターを迎え60年代、70年代、80年代の超ど級の名曲ばかりが選曲されている。よくもここまで揃えたと感心する名曲たち。ほとんどの曲が彼女のヴォーカルスタイルに合ったスロー・バラードに編曲されている。一曲めはママス&パパスの「夢のカリフォルニア」。オリジナル曲の持つ時代性も特徴も見事に排除され、スローボッサ風にアレンジされたこの曲がアルバムトップ曲とは意表を突かれた。さすがデイビッド・フォスター仕事人、商売人だ。

ほぼ全曲にゴージャスなストリングスアレンジが施され、アルバムを格調高いものにしている。参加ミュージシャンもコーラス、デュエットにグラハム・ナッシュ、スティーブン・スティルス、ティモシー・シュミット、ブライアン・アダムス、マイケル・ブーブレなど、演奏ではディーン・パークス、ジム・ケルトナーがいい味を出したサポートをしている。ノン・ビブラートに近いぶっきらぼうなダイアナの歌唱スタイルでは表現しきれなかった曲もあったが、デイビッド・フォスターの編曲はそれを補って余りあるものだ。ぼく個人としてはデュエットのマイケル・ブーブレが素晴らしい、ギルバート・オサリバン「Alone Again」。グラハム・グールドマン&エリック・スチュアート作10CC「I’m Not In Love」ボニー・レイットやリンダ・ロンシュタットもカバーしているランディ・ニューマン「Feels Like Home」。ポール・マッカートニーをして「この時代に(1980年代)こんなメロディーが残されていたとは」と驚愕せしめたクラウディド・ハウス「Don't Dream It's Over」のカバーが気に入った。素晴らしい。

久しぶりにリッチな(物、心両面で)アルバムを聴いた気がする。今この時代に、こんなアルバムを作ってしまったデイビッド・フォスターに拍手。

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