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SHINING RIGHT DOWN ON ME 宮田あやこ3年ぶりの東京ライブ

2016年5月28日、29日、30日、31日の4日間、東京は自然のエアコンディショナーが働いたかのような気温で、宮田あやこを迎えてくれた。前回も5月の下旬にライブは行われたのでちょうど3年が経った。その間僕は母を、あやこは父を見送った。今更ながらだけれど月日の移ろいの速さを思う。もはや♫Time is on my sideとローリング・ストーンズが歌った時代ではない。時間は待ってなどくれない、ましてや味方などではない。

稲系のアレルギーにより札幌であやこは苦しんでいた。毎年この時期に見舞われる症状だがアレルギー薬は声域を狭めるので飲まない。しかし東京に着くとピタリと症状は収まった。会場の新宿ミノトール2は新宿5丁目にある。36年前あやこがエピック・ソニーからデビューしたとき、デビューお披露目ライブを行いその後毎月ライブをした「ルイード」がすぐ目の前にあった。ビルは今でもあるが違うテナントになっている。また当日は花園神社のお祭りで縁日があり新宿3丁目界隈は熱気にあふれている。

新宿ピットインに併設されているリハーサルスタジオでライブ初日当日午後1時から初リハを行う。メンバーは札幌から同行した山下泰司(ピアノ)にベテラン音楽家、細井豊(キーボード、その他)マイク・ダン(ベース)。3人が共演する部分を一回だけさらう。事前に音源、譜面を送っていたとは言え、皆さんの負担は相当のものであったように思う。しかし一曲目のリハを終えたあと山下泰司が「至福の時です。」とつぶやいた一言がライブの成功を予見していた。バック・コーラスが大変と考えていたのだけど、マイクは伝説のスーパーバンド「パラシュート」でヴォーカルを勤めていたし、細井君はイーグルスやオーリンズと海を隔てて張り合っていたバンド「センチメンタル・シティ・ロマンス」のメンバーだ。そのハーモニーワークは日本のバンドでは群を抜いている。その二人に山下泰司が加わり二声、三声で歌われる。あらかじめ山下の書いた譜面に細井、マイクのアイデアが加えられ、あっという間に素晴らしいハーモニーが完成。その他の曲もアレンジャー山下泰司の手際いい進行で滞りなく終了。

会場のミノトール2は収容数60数名の程よいスペース。どの席に座っても音響が良い設計になっていて感心した。PAミキサーが常駐し、照明も兼ねる。ピアノはヤマハ外枠にスタインイウェイが入っているのだそうだ。硬質だが確かにスタインウェイの音だ。札幌のジャズピアニスト故福居良さんはここのピアノが好きでこの会場よくを利用していたそうだ。昨年の11月が最後のライブだった。

29日(日)30日(月)と二日間の公演。休憩を挟んでの2部公演。メンバーが全員揃う1部後半、2部は構成が同じだが、1部半ばまでの山下泰司とのデュオ部分は曲をガラリと入れ替えた。初日の模様を簡単にレポートしよう。

山下泰司がコール・ポーター作「NIGHT&DAY」を軽やかに華麗に奏でる中宮田あやこニコニコと登場。歌い終え「ようこそ札幌へ」と挨拶。会場がどっと沸く。今回のライブは
札幌GERSHWINの雰囲気をそのまま東京にお届けしようといった企画だ。お客様はかつて札幌勤務していた方、出張でいらっしゃっている方、札幌生まれで東京で働く方、全国の宮田あやこファンと様々だ。初日は日曜日ということもあり、ご夫婦でいらっしゃった方も多い。

2曲目はお久しぶりねと「WHAT’S NEW」。今回のライブは事前にリクエストを募っていた。3曲目はリクエストに応えて「LULLABY OF BIRDLAND」と続く。

4曲目は会場にいるピアニスト大山泰輝がステージに呼ばれ、あやことジョージ・ガーシュウィン作「SOMEONE TO WATCH OVER ME」。あやこのスタンダードアルバム「BEWITCHED」でかつて共演した曲。お互い見つめ合い呼吸を合わせ、ドラマチックなバラードをヴァースから見事に披露する。大山のピアノは音楽の粒が降り注いでくるかのよう。美しい。あやこも完璧に歌い上げる。今年放送されたNHK朝ドラ「あさが来た」で聴こえてきたピアノは大山によるもの。現在ソロ・アルバムを制作中だ。

5曲目はビートルズの「ノルウェイの森」。6曲目の前にちょっと長い語りが入った。あやこが小学生の時札幌で母親がわりに生活を見てくれた叔母が先日重篤な病で病院に搬送され、意識がない。叔母は東京生まれ東京育ち終戦後米軍用のデパートで働き英語を喋るハイカラな人で、幼いあやこにドリスデイの歌などを教えてくれていた。病院に駆けつけそんな懐かしい歌を意識のない叔母の耳元で歌ったら、叔母はニッコリ微笑み曲に合わせるように顔を揺すったのだ。叔母の脳裏には若かった頃の素敵な思い出が蘇ったのかもしれない。そばにいた叔父や従妹は涙した。そんな話をはさみ叔母との思い出の曲ドリス・デイの「QUE SERA SERA」「ケセラセラ、なるようになるわ。先のことなどわからない」の部分を日本語で歌う。細井豊の間奏のアコーディオンが素晴らしく拍手が沸く。叔母はこのライブの5日後に息を引き取った。

「心が折れそうになった時にこそ笑顔を、あなたの顔を喜びで満たして」と語り、これもリクエストに応えてチャップリンの「SMILE」。マイク・ダンのベースが加わり、細井が間奏で感動的なハーモニカを奏でる。

8曲目はビートルズの「LOVE ME DO」。細井のハーモニカが、マイクのベースがご機嫌に鳴り響き山下のピアノがブルースを思いっきり表現する。あやこのヴォーカルも全開。

一部最後の曲はロック/ポップ史上燦然と輝くフィル・スペクター制作、「BE MY BABY」。なぜあやこがこの曲を歌うか。それは山下泰司のアレンジ&ピアノがあまりに素晴らしいからだ。バイヨンリズムのバスドラ鳴り響くイントロの呪縛から多くのカバーは逃れられないのだけど、山下の編曲は軽いボッサリズムを基調とする。それに呼応しあやこもCODAで軽やかでメロディアスな極上のスキャットを披露する。この曲の作者エリー・グリンウイッチ自らが歌うワルツ仕立ての「BE MY BABY」と山下泰司のこのアレンジは僕にとって二大カヴァーだ。
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撮影 向井宣裕

2部はレオン・ラッセル曲「THIS MASQUERADE」からスタート。間奏で細井が印象的なハーモニカを吹くのだが、翌日はこの部分フルートを吹いた。この二日間のライブで細井が使った楽器はアコーディオン、ハーモニカ、フルート、オルガン、エレピ、ストリングシンセ、ピアノ、パーカッション、そしてコーラス。リハではサックスも試していた。驚くべきマルチ・プレイヤーである。マイク・ダンはニュージーランド出身、オーストラリアでプロ活動を始めた。最初は学校でチェロを学びベースに転向、オーストラリアではデビュー前のビージーズ兄弟と演奏活動を行っていたそうだ。日本に来て40年を超える。そんなメンバー紹介をたっぷりと行う。

長いメンバー紹介を終え2曲目は「SUPER STAR」。レオン・ラッセル/ボニー・ブラムレット作のこの曲はカーペンターズのヒット曲でお馴染みだが、あやこはジョー・コッカーのツアーで歌われたリタ・クーリッジヴァージョンに触発されてこの曲を歌い始めた。歌詞もグルーピーを歌ったものに戻す。マイク・ダンのあやこの歌に寄り添う物悲しい表現が素晴らしい。マイクの歌声には惚れ惚れさせられるものがある。いつかアーロン・ネビルとリンダ・ロンシュタットのようなデュエットが実現できたらと思う。

3曲目はボズ・スキャッグスの「SLOW DANCER」山下泰司の書いたマイク・細井・山下による3声のコーラスが素晴らしい。曲はより感動的なものとなった。

4曲目に歌われたのはリンダ・ロンシュタットの「BLUE BAYOU」。リンダの十八番でさすがにあやこも手を出せなかったのだが、一昨年札幌でリンダトリビュートを行った際この曲を外すわけには行かず、あやこは初めて歌った。最近になってようやく曲を自分のものと出来たようだ。哀愁と温もりが同居するあやこの歌唱はリンダとはまた違った世界を作りあげた。テックスメックス風の細井の奏でるアコーディンが素晴らしく、この日この曲が良かったと多くの方が感想を述べてくれた。

5曲目は今年亡くなったイーグルスのグレン・フライに捧げて「DESPERADO」。同時代を生きた細井がアコースティックピアノを弾く。この曲はあの時代のバイブルのような曲だ。グレンへの鎮魂歌かのように歌われる。リハで一回合わせただけなのにあやこと細井の息はぴったりだ。

6曲目はあやこがデビューした1980年第二弾シングルとして発売された「ALASKA」。北海道出身のあやこのイメージに合わせ松本隆が書いた歌詞は、失恋で冬に北へと向かった女性が流氷の町で自分をリセットするといったストーリーなのだが、あやこは「失恋女性が北へ向かう、まるで演歌の世界だけどさすが松本隆さんですねえ、強い女性を描いてくれました。」と会場を笑わせ、併せてこの日会場にいらしていた松本隆さんの実弟であやこを発掘してくれたプロデューサーの松本裕氏を紹介する。36年ぶりの再会だった。ジャクソン・ブラウンを意識して作られたこの曲、山下、細井の力強い演奏が素晴らしかった。

7曲目はデビュー当時あやこのステージの定番曲だったリンダ・ロンシュタットの「YOU’RE NO GOOD」から始まってキャロル・キングの「IT’S TOO LATE」へと繋ぐ。長いメンバーのアドリブソロが続き10分にも及ぶ演奏になった。メンバーの力量の凄さを改めて思った。バンドのバランス重視を心がける山下のピアノがその役割から解き放され躍動する。パーカッシブな素晴らしいプレーだった。山下は今回のライブの陰の立役者である。彼の存在なくして今回のライブは成り立たなかった。このライブを機に彼の才能が一層花開くことを願う。

最後の曲はキャロル・キングの「WAY OVER YONDER」。鎮魂歌として3・11直後からこの曲をあやこは歌い始め、3年前の東京でもこの曲を歌った。しかしまた熊本で大惨事が起きてしまった。飢えや寒さのない希望の場所、黄金の太陽が自分に降り注ぐ場所がきっとあるはず、と歌われるこの曲は当日会場に居た熊本からご参加の江藤夫妻にそして悩みを抱える人に向け歌われた。江藤氏は家を立て直さなければならないほどの被害を受けたにも関わらず、この日のライブを楽しみに復旧に当たられたのだそうだ。スピリチュアルで荘厳な山下の前奏から始まり、あやこの歌が次第に熱を帯び細井のオルガンが間奏で炸裂する。最後を飾るにふさわしい歌、演奏だった。

アンコールは「ADIOS」。1989年にジミー・ウエッブにより書かれた曲だが、最初に録音したのがリンダ・ロンシュタット。17歳で彼と手を取り合ってカリフォルニアへと向かい住んだ女性が、夢をもう一歩で実現させるところで彼と別れカリフォルニアに別れを告げ北へ向かうといった内容の歌だが、今回のライブ構想はこの曲との出会いから始まった。かつて憧れの地であり多くの夢を育んでくれたサザン・カリフォルニア及び音楽家たちへの感謝をあやこは熱唱する。

ライブ最後の曲は参加してくださった皆さんへの感謝と繋がりを祝福して「YOU’VE GOT A FRIEND」。会場のみなさんもコーラスに参加して下さり、コンサートを幸せに終える。両日とも観客の皆さんが素晴らしかったとマイク、細井両氏が何度も語ってくれた。素晴らしいソロへの拍手、絶妙な歓声も随所で聞けた。出演者のみならずライブ企画者にとっても至福の時だった。1部55分,2部1時間25分。コンサートを終えマイク・細井両氏は目を赤くしてあやこに握手を求めた。

ブログにアップするのが僕の役目なのだけど、今回は正直活字にするのがしんどい。もっとライブの余韻に浸っていたい。僕はプロの物書きではないので活字では音楽の魅力の一端しか伝えられない。音楽評論家の小尾隆さんが素敵な文章にしてくださった。さすがプロの仕事だ。http://obinland.exblog.jp
当日参加の方たちと心にそっととっておきたいライブだったけれど、何らかの形で当日参加できなかった方たちにもお届けできる方法を今考えている。


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