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やすらぎの郷と八千草薫さん

テレビ朝日系列で毎週月~金昼12時30分から放送されている「やすらぎの郷」を楽しみに見ている。脚本家倉本聰が書き下ろした、テレビの発展に貢献した人のみが入居できる老人施設を舞台にしたドラマだ。


往年の俳優たちが老人役で顔を揃える。八千草薫、石坂浩二、浅丘ルリ子、加賀まりこ、野際陽子、五月みどり、有馬稲子、山本圭、藤竜也などなど。


若者向けトレンディ・ドラマがはびこる中、真昼間から老人群像ドラマ放映に踏み切ったテレビ朝日と売り込んだ倉本聰に拍手を送りたい。


倉本聰が脚本を書いたドラマには楽しませてもらってきた。初めて彼の名を印象づけられたのは1974~75年にかけて放映された、加東大介主演で遺作ともなった「六羽のかもめ」。ヴィデオのない時代、同時刻に萩原健一、水谷豊出演の「傷だらけの天使」が放映されていたが「六羽のかもめ」に僕はチャンネルを合わせた。続く「前略おふくろ様」も圧倒的面白さで、それ以来倉本聰ドラマのとりこになり現在に至る。


倉本が八千草薫主演のドラマを企画していると何年か前どこかの記事で見た。大女優であるにも関わらず庶民的な役でテレビにもなんの偏見なく出演し続けた八千草薫は倉本ドラマの重要な役者でもあったのだ。倉本はそんな八千草がどれほどに美しく魅力ある女優であり、かつ素晴らしい女性であったかを作品として留めておきたいのだと僕は理解し、その実現を心待ちにした。


それがこの「やすらぎの郷」だったのだ。今現在ドラマはあと一ヶ月を残すのみ。八千草演ずる「姫」こと九条摂子が不治の病で余命一ヶ月という事実が明らかになったところまで話は展開して来た。多くの名俳優たちが演じたこの群像ドラマであるが、倉本が一番書きたかったのは八千草薫が演じる往年の名女優九条摂子であるのは明らかだ。またほかの出演者たちもその気持ちを汲み八千草に特別な敬意を持ち演技している。


僕個人も昭和40年代札幌遊楽館地下劇場で日伊合作「蝶々夫人(1955)」の予告編を見て主演の八千草薫のその清楚な美しさに打たれて以来、密かにファンを続けてきた。余談だが「蝶々夫人」はローマのチネチッタスタジオで撮影されているのだけど、前年同スタジオでオードリー・ヘップバーン主演「ローマの休日」が作られている。二歳違いのふたりが同じような歩みをしたのは符号なのか・・?


1970年代はじめ進学で上京した僕は、新宿のアドホックビル(だったと思う)のどこかの場所で友人と待ち合わせをした。待ち合わせ場所が見つからなかった僕はあるブティックの店員に場所を尋ねようと声をかけた。振り向いたその店員とおぼしき女性は「わたくし、店員ではありませんのよ。」とニッコリ微笑んだ。


その女性はまぎれもない八千草薫だった。当時40歳ほどだった彼女だが、僕が店員と間違えるくらいだから服装はカジュアルだったし、年齢よりずっと若く見えた。夢か現実か、東京に住み始めてほどない田舎者にとってはあんまりの洗礼だった。固まり真っ白になった僕はなんの言葉を発することもできずに、その場を立ち去った。
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さして誇れる思い出話のない僕にとって、八千草薫さんとの遭遇は最大の自慢話である。


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